妄想限界   薫×芳人 迷い89

薫×芳人 迷い89

カオちゃんを残していくのはちょっと心配だったんだけど・・・・。
夜勤に出かけようとした僕を、カオちゃんはいつものようにぎゅって抱きしめて、触れるだけのキスをしてくれた。
まだ少しお酒の匂いがするけれど、昨日ほど取り乱したようには見えなくて・・・・。
もちろん、我慢してるんだと思う。
カオちゃんが自分の気持ちを口に出すなんてこと、ほとんどないから。
そんなカオちゃんがいとおしくて、カオちゃんの頭をぎゅって抱きしめた。
「行ってくるね。」
「・・・ん。」
僕のせいで、セットの乱れた髪を直そうともせず、カオちゃんは僕に微笑んだ。
「・・・・・ごめんね?」
笑顔をどうしても痛々しく感じて、思わずそんな言葉が漏れて・・・・。
そしたらカオちゃんはまた僕を抱きしめた。
「・・・明日、たくさん俺といて?・・・・・・待ってるから。」
「・・・・ん・・・・。」
カオちゃんの気持ちが、僕の心を包む。
こんなにも寂しい気持ちでいるの。
でも、それを必死で押し殺して、僕にほんのすこし甘えるだけ・・・・。
「・・・だいすきだよ。・・・・・愛してる。」
カオちゃん目を見てしっかり伝えた。
いつももらうばかりのこんな気持ち。
でも、僕だって、いつもいつも同じ気持ちだから。
カオちゃんには僕がいるよ、って伝えたいの・・・・・。
カオちゃんは、泣きそうに嬉しそうに笑って、僕にキスしてくれた。
カオちゃんを支えたいと、強く思う。
僕にしかできないやり方で、僕にしかできない方法で。
僕も強くなりたいから・・・・・。


その夜は、珍しいことだけど、お産ラッシュで、僕の身体はくたくたになった。
永遠に夜が続きそうで、やっと白み始めた空にすっごくほっとして、僕は医局でコーヒーをすすっていた。
今日生まれたのは、全部女の赤ちゃんで、皆健康そのもの。
さっき見に行ったら、仲良く泣いてた。
生まれたばかりの赤ちゃんは、外界に適応するために、一晩は良く泣くものなんだ。
カルテを少しずつ書いて、ふと何気なく携帯を見たら、メールが届いていた。
直感的にカオちゃんってわかって・・・・・。
急いで携帯を開いた。
仕事の合間に、カオちゃんのことが気にかかってたから、どきどきして。
液晶には一言。
「眠れない」って書いてあった。
カオちゃん・・・・・・。
足が、自然と帰り支度に向かおうとするのを、必死で止めた。
僕にはまだ仕事が残ってる。
あと、数時間、大神先生が来るまで。
ふと時計を見たら、5時をちょっとすぎたところだった。
カオちゃんが今、どうしてるかわからないけど、ちょっとだけ・・・・。
3回鳴らして出なかったら、眠ってると思おう。
携帯を操作して、カオちゃんに電話をしてみた。
一回目のコールが鳴る。
2回目の途中で、がちゃって音がして、カオちゃんの声がした。
『・・・・ごめんね。・・・・・・俺・・・・でも・・・・どうしてもダメで・・・・。』
カオちゃんの心細い声に、僕の心が震える。
「・・・・・カオちゃん、無理しないで?・・・・・・お薬は?」
カオちゃんは今でも時々、睡眠薬を飲んでるの。
まだ体調が万全とはいえなくて、ストレスや疲れが不眠につながることもあるから。
『・・・・そんなの・・・・・。せっかくよくなってるのに・・・・・。飲めないよ。また、前みたいになるかも、って怖くて・・・・。』
いつもいつも、カオちゃんはこう言って、薬を拒否するの。
「カオちゃん・・・・・・・。」
『早く帰ってきて?・・・芳がいてくれたら・・・・俺、すごく安心できるんだ・・・・。』
昇り始めた太陽が、僕の頬を照らして・・・・・。
「・・・・うん・・・・。もうすぐ帰るからね?・・・・一緒に眠ろうね?」
『・・・・・うんっ・・・・・。』
まるで泣き出しそうなカオちゃんの声に、僕も泣きそうになって、奥歯をかみ締めた。
本当のカオちゃんは、こんな風にとっても繊細で、幼い。
僕が今までカオちゃんだと思っていたカオちゃんじゃない。
きっと・・・・・。
これまで僕は、カオちゃんにたくさん無理させて、たくさん我慢させていたの。
それを一言も言わないカオちゃんの愛情が痛い。
そして、僕もカオちゃんを甘えさせてあげられなかったの。
ごめんね、カオちゃん。
ごめんね。
今更償えるとは思わないけれど。
僕でいいなら、何でもするよ。

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント